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農業におけるバイオテクノロジー
安全、豊富、かつ高品質な食糧を確保するために

EPA(米国環境保護局)
フレッド・ゲンスナー


バイオテクノロジー革命が始まったのは、1980年。米国最高裁判所が、遺伝子工学による人工的な操作が加えられた微生物に対する特許の可能性を認める判断を下した年である。この決定は、産業界がバイオテクノロジーを応用した作物や食品開発に注力する経済的な動機付けとなった。以来、地球上すべての人々の生活が変わることとなった。

化学物質の安全審査や登録のための法的手続きはすでに整備されていたものの、遺伝子工学によって創出された生命体とそれに由来するたんぱく質などの有機物(以下、バイオ製品)の登場により、リスク評価における新たな課題が浮上した。バイオ製品の適格な安全審査を求める政府規制当局への要請と、消費者の懸念に応えるべく、私は1985年、EPA(米国環境保護局)に採用された。私の任務は、バイオ製品が市場に流通することによるリスクを評価するための試験法を開発することだった。このようにして私は、米国、カナダ、EU(欧州連合)などの国・地域の政府、学会の数千人の科学者と共に、バイオ製品の人体や環境への影響を調査することになった。「生存」「遺伝子移入」「非対象有機物への影響」「在来種の置換」「ヒトの健康への影響」「環境への影響」など様々テーマに関する数千ものレポートが科学者間の検証を受け、主要な学術出版物を通じて発表された。これらのレポートが提供する包括的なデータを活用することで、バイオ製品の使用に関する的確な判断が可能となる。以上の予備的情報をもとに、本文では安全で豊富な食品の供給を長期的に確保するうえで、日米両国で厳格な審査を受け認可されたバイオ製品がいかに貢献できるかについて論じていきたい。

我々は、不確実な世界に生きている。食料の供給量・品質・価格は、干ばつや洪水、台風などの天災や、一部の科学者が唱える急激な気象変動(地球温暖化)によって、常にリスクにさらされている。深刻な植物の病気(イネのイモチ病、アジア大豆さび病、アワノメイガなど)や、動物の疾病(鳥インフルエンザ、BSEなど)も日本の食糧安全保障に脅威をもたらしている。環境が農作物や家畜に与えるストレスやグローバル化によって農作物の供給量や品質を脅かす既存の、または新たな病気の発生が増加することは確実である。このような自然の要因に加えて、戦争や、農業テロ(訳注:農作物や家畜へ経済的・社会的被害を与える行為)、公害や政情不安、人口増加に伴う農地の損失などの人的な要因が今後も食糧の供給量と品質に影響を及ぼしていくだろう。日本は必要とする食糧供給の多くを輸入に頼っている(熱量ベースで、全体の60%)。当然のことながら国民は食糧安全保障の問題を憂慮している。



バイオテクノロジーの発展により、我々は食糧安全保障に対する多くの脅威から農作物を確実に保護する術を手に入れた。食料保護対策の重要な手段のひとつは脅威への迅速な対応である。従来行われてきた、望ましい形質を得るための選抜育種(交配)は時間のかかる非効率的なプロセスである。しかし遺伝子工学によって、それが迅速に正確に効率的にできるようになった。耐病性、耐干ばつ性、生産性の向上(世界的な人口増加に対応)、栄養価の向上、食品を汚染する可能性のある毒素のバイオ転換、有害殺虫剤・除草剤の使用削減、収穫後の安定性。これらは遺伝子工学が食糧安全保障に係わる問題の解決に貢献した例である。これまで、これらのバイオ製品が従来の交配技術で得られた作物と安全性において異なることを示す証拠はない。

米国において食品安全性確保の責務はEPA、FDA(食品医薬品局)及び農務省が担っている。日本に輸入されているバイオ製品に関しても、米国の科学者による厳格かつ包括的な安全審査・評価が完了している。

米国においてバイオ製品の認可を取得するには、製造者がすべての安全性上の問題に対処しなければならない。推定によると、米国の店に並ぶ食料品の70%以上がバイオ製品を原料として使用している。いまも消費者保護団体がバイオ製品に対し厳しい目を光らせ、積極的に関与しているにもかかわらずこの高い数値を得ていることは、米国の消費者がバイオ製品を広く受け入れていることを表していると言える。また、米国におけるバイオ製品の認可に関し米国内市場向けと輸出市場向けに異なる安全性基準は存在しない。

日本においても、追加的な消費者保護対策として、バイオ製品に関する規制システムが機能しており、食料・飼料・花など190種類のバイオ製品が認可されている。しかし、日本の規制システムには(例えば、科学的に正当化できない食料・飼料の審査手順や、認可された製品に無認可の製品が微量混入した場合の、許容値がゼロであることなど)貿易を阻害し、ひいては投資や科学の進歩の足かせとなる要素が存在する。日本は、世界の農業市場で大きな影響力を持っており、日本の意向如何でどのバイオ作物が作付けされ、どの作物が作付けされないかが事実上決まってしまうと言っても大袈裟ではない。

バイオ製品の使用・摂取については多くの批判や不安が聞かれるが、そのほとんどは根拠がないか、誇張されている。実際、バイオ製品のもたらす健康上のリスクは、元来の食品と同じ性質のものである。アレルギー、毒性、栄養素の吸収を妨げる化合物などは、バイオ製品の問題点としてよく取り上げられるが、それらは遺伝子工学により出現するものではなく、元の食品に内在するものである。例えばピーナッツや大豆、小麦にアレルギーを持つ人は多く。アオイマメには、元来ヒ素化合物が含まれている。また、ほとんどの種子と穀類には、フィチン酸塩が含まれている。フィチン酸は、さまざまな重要なミネラルと結合し、食品の栄養価を損ねる物質である。さらに言えば、我々が摂取する食品中の遺伝子は体内に吸収されたり、その特性が現れたりすることはない。他の栄養素と同様、単に消化されるだけである。当たり前のことだが、豚肉や魚を食べたからといってヒトが豚や魚の特性を取得することはないのである。特筆すべきは、バイオ製品は流通の前に開発者のリスク評価を経ているという点である。従来の製品(交配作物等)では、このようなリスク評価は通常行われていない。懸念となりうるすべての問題について、バイオ製品開発者は調査研究を実施し対応している。好ましくない特性が現れた場合には、開発段階で改善され、問題が完全に解決されるまでは製品の流通が許可されることはない。

以上のことから科学者は人々の利益のためにバイオ製品を開発しているという事実を理解していただければ幸いである。決して危害を加えるためではない。同様に貿易は食糧安全保障に貢献するものであり、それを損ねるものではない。この不確実な世界で安全、高品質かつ栄養価の高い農作物の供給を確保し続けるためには、一般の国民・消費者が農業従事者や科学者を信頼し支援することが不可欠である。

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フレッド・ゲンスナー博士は、EPA(米国環境保護局)の微生物学者である。2007年には在日米国大使館(東京)の科学研究員(フェロー)を務めた




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